『魔王を倒したあとの、ちいさな王国のあきない話』
魔王が倒されたあとの、小さな王国で起こる五つのお話。
第三話 王様、願いが山ほど届きました!
お城の門のそばには、王様が置いた「願いの箱」がある。
『こんなものがあったら面白い』『ここが少し困る』『もっとこうしてみたい』。冒険者なら誰でも紙を入れてよい。王様は毎週、職人たちと箱を開けるのを楽しみにしていた。
その週は、箱がいっぱいだった。
「新しい迷宮がほしい」
「古い迷宮に秘密の部屋を」
「空を飛びたい」
「空を飛ぶ敵は困る」
「もっと強い剣がほしい」
「今の剣をずっと使いたい」
「酒場の椅子を増やして」
「椅子はいらないから、パンを増やして」
王様は一枚ずつ丁寧に読んだ。
「みんな、ずいぶん王国を楽しんでくれているなあ」
鍛冶屋のトトがうなずいた。
「よいことです。ただ、うちの職人は三人しかいません」
「これを全部、明日までに作るのは?」
「王様でも無理です」
「王様なのに?」
「王様でもです」
王様は積み重なった紙を見渡した。
「では、何から考えよう」
職人たちが願いを読み直すと、「空を飛びたい」と書かれた紙には、その理由も添えられていた。
『川の向こうの景色を見てみたいのに、橋が遠いから。』
王様は首をかしげた。
「飛びたいのではなく、向こう岸へ行きたいのかもしれない」
次の紙にはこうあった。
『空を飛ぶ敵は困る。弓がない友だちは見ているだけになってしまうから。』
「同じ『空を飛ぶ』の話なのに、困っていることはずいぶん違うな」と王様。
「こちらの願いも、別に考えておきましょう」と職人。
「なるほど。では、橋が遠くて困っている人に、何かできないだろうか」
そこで職人の一人が、小さな渡し舟を作ろうと言い出した。出来上がった舟は三人乗りで、乗ると少し揺れた。空は飛ばない。でも、川の上からの景色はよく見えた。
試しに乗ったミナが叫んだ。
「わあ! 空を飛ぶより、こっちの方が魚が見える!」
「空も飛んでみたかったけどね」とレオン。
その日の夕方、王様は願いの箱の横に、小さな紙を貼った。
『願いは、これまでどおり何でもどうぞ。何ができたら楽しいか、その理由も聞かせてもらえるとうれしいです。』
翌週、箱の中には『もっと大きな渡し舟』と『魚の名前が分かる図鑑』と『やっぱり空を飛びたい』が入っていた。
王様は笑った。
「最後の願いは、いつか取っておこう」
職人はうなずいた。
「いつか、いい方法が見つかるかもしれませんから」
ところが翌朝、箱にはまた新しい紙が入っていた。
『川の向こう岸から、遠くの山が見えました。今度は山の向こうも見てみたいので、空を飛べる渡し舟がほしいです。』
王様はその紙を職人に見せた。
「山の向こうか。行ってみたい場所が、また増えたな」
「空を飛ぶ方法はまだ分かりませんが、今の舟なら、もっと乗りやすくできそうですよ」と職人。
「それも楽しみだな」
川の向こう岸では、舟を降りた旅人が、初めて見る景色に見とれていた。


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