『魔王を倒したあとの、ちいさな王国のあきない話』
魔王が倒されたあとの、小さな王国で起こる五つのお話。
第四話 伝説の剣より売れるもの
武具屋トトの店には、伝説の剣が飾られていた。
ただし、売り物ではない。
剣の持ち主レオンが、刃の手入れを頼むため預けているのだ。
「この剣、いつ見ても立派ですね」と見習い職人。
「立派すぎて困るんだよ」とトト。
「困るんですか?」
「勇者たちがみんな、こんなのを持っていたら、次に何を作ればいい?」
見習いは考え込んだ。
「もっと長くて、もっと光る剣?」
「それを作ったら、今度はもっと長くて光る剣が必要になるな」
「最後はどのくらいになります?」
「この店から酒場まで届くくらいだ」
「酒場に入れませんね」
二人は笑った。
そんなある日、王都の北に古い迷宮が見つかった。
入口には、こう書かれていた。
『強き者、力を置いて進め。賢き者、古きを忘れず進め。』
レオンは伝説の剣を持って入った。最初の扉は開かない。剣を置いても開かない。
そこへミナが、古びた木の盾を持ってやって来た。
「これ、入口のくぼみにちょうどはまりそう」
はめると扉が開いた。
次の部屋では、重い鎧が足音を響かせると眠っていた石像が目を覚ます。レオンは鎧を脱いで身軽な服に着替え、久しぶりに足音を忍ばせた。
三つ目の部屋で役に立ったのは、レオンが鞄の底から取り出した古い灯りだった。駆け出しのころにトトの店で買った、二人で持つと少しだけ明るくなる不思議な道具だ。レオンとミナがそれぞれの持ち手を握ると、壁に隠れていた文字が淡く浮かび上がった。
その夜、迷宮から戻ったレオンが灯りを見せると、トトは目を丸くした。
「あれ、まだ持っていてくれたんだ」
「ずっとしまってあったんだ。でも、今日はこれが一番役に立ったよ」
ほどなく、ほかの冒険者たちも武具屋に集まり始めた。
「十年前の小さい盾はないか」
「光りすぎない灯りがほしい」
「剣を飾る鞘だけ注文したい」
「この鎧に、旅の思い出を刻めますか」
トトはひたすら忙しかったが、誰も「今の剣より強い剣」を注文していなかった。
閉店後、見習いが尋ねた。
「結局、今日は伝説の剣より売れるものがあったんでしょうか」
トトは売上帳を開きかけて、やめた。
「どうかな。でも、みんな、すでに持っているものを楽しそうに話していた」
レオンは手入れを終えた剣を受け取り、鍛冶屋に注文した。
「この剣に合う、新しい鞘を作ってくれないか。あの迷宮の模様を入れて」
「もっと強い剣じゃなくて?」
「今の剣が気に入っているんだ」
トトはうれしそうにうなずいた。
見習いは棚の奥から、古い鞘の型紙を引っ張り出した。黄ばんだ紙を広げると、トトは「それだ」と手を打った。
古い剣の価値は、昨日と同じではなかった。剣が変わったのではない。剣と一緒に出かける場所が増えたのだ。


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